ロッキン神経痛のブログ

脳みそから出るアレをこぼさずジップロック

著書『限界集落・オブ・ザ・デッド』が発売された話

 前にも少し話したのだけれど、第2回カクヨムWeb小説コンテストのホラー大賞を受賞したことにより、ついに僕の著書『限界集落・オブ・ザ・デッド』が発売されることになった。

 

 人生に一度しか訪れない、処女作の発売日は平成29年12月10日となった。

 

 僕はその日の前日、近所のバーで看板猫を撫でながら気が狂うまでワインを飲んでいたせいで、当日は炬燵の中でうんうんと唸り続ける獣と化していた。昼過ぎには意識も現世に帰ってはきたのだけれど、部屋のカーテン開けたら外は雨だし……あとなんか寒いし……という止むを得ない理由から翌日の11日に本屋に行くことにしたのだった。

 

 翌日、一番近い本屋へ行き、意気揚々とカドカワBOOKSの書棚へ僕は向かった。仁王立ちをして上から下まで眺め見るが……あれっ?……無い。

 

 僕の本が、無い。

 

 圧倒的完膚なきまでに無い、無いったら無いのだ。

 

「あ、田舎だから入荷日が遅いのかもな」

 

 首を小刻みに縦に振りながら自分を納得させようとする僕だったが、うつろなその目に 「デスマーチからはじまる異世界狂想曲12巻」(同日発売)が入ってしまった。

 

 ……バ、バカな!! 僕は怒りに震えながら、電子端末でロッキン神経痛と検索した。(我ながらバカみたいなペンネームだと思う。)そして現れた著書を選択し、予約表を出してレジに持参した。

 

「あ、あのぅ、スミマセン。この、限界集落なんとかって本は、まだ入荷してないんですか?」

 

「調べてみますね……あぁ、うちでは入荷はしないみたいです」

 

 畜生!いくらカドカワBOOKSがちょっと一般ラノベと毛色の違うことを押し出した四六判オシャレレーベルゆえに、陳列数に限りがあるからって、売れ筋の新刊だけを入荷するだなんて。こんな不条理があっていいはずがないと、僕は目を大きく見開き、申し訳なさそうに眉毛を八の字に曲げている若い女性店員に向かって言った。

 

「アッ、ソッスカ、サーセン」

 

 こうして僕は、うつ◯みや書店金沢香林坊店を後にすると、数週間前に書いた特典掌編を確認する為にア◯メイト金沢に向かった。

 

 天下のア◯メイト様は、流石にラノベに力を入れているだけあって、入り口を曲がってすぐ右に新刊コーナーがあり、そこに平積みされた著書を確認することが出来た。僕は、カクヨム発の同期であるクオンタムさんの「勇者、辞めます ~次の職場は魔王城~」と共に並べられた自分の本を前にして……しばし沈黙してしまった。

 

 その後、ゆうやめとオブデを持ってアニメイトのレジに向かった。アニメイトで買い物をするなんて、同ビル内にあるメイド喫茶に通っていた時以来だ。あの時見た数々の表紙の中に、自分の本があるということがとても不思議な気分がする。

 

 人生何が起こるか分からないと言うけれど、身内向けにノリのままに書いていた自分の小説が、こうして本屋に並ぶ人生もあるのだろうか。

 

 今まで世間に中指を立てつつ、世の暗い所にばかり焦点を当て続けてきた僕だけれど、最近では沢山の人の縁と、顔も知らない読者の方々から受ける善意に感謝ばかりしている。

 

 というのも、きっと世の作家は皆経験することなのかもしれないが、一冊の本が出来るまでには、編集者、校正者、イラストレーター等々、沢山の人々の時間と労力が注がれており、その中心人物となる作者は、皆の力あっての出版であるという事実を強く実感せざるを得ないのだ。

 

 つまり、もはやこの作品は自分1人だけのものではない。それは読者も含め、関わってくれた全ての人々の間の共有物と言って良いものなのだ。ちょっとした僕の妄想から始まった作品が世に放たれたことに、感謝を覚えない訳がないだろう。

 

 この日レジで受け取ったレシートは、僕にとって捨てられないものになった。

 

 そしてやっぱり、なんだか照れくさい気になって、数日経ってもまだ、自分の本のビニルは破けないでいる。これから売れるかどうかは分からないけれど、時間が経って落ち着いたら、自分の本を恥ずかしがりながら読もうと思う。今はただ、そんな気持ちだ。