ロッキン神経痛のブログ

脳みそから出るアレをこぼさずジップロック

ブータン王国へ行った話(2)

 ここで墜落死したら、ちゃんと遺体は見つけてもらえるのか?


 それがブータン国際空港への着陸前、機内窓から外を見た僕の感想。
 機体に5歳児が楽しそうに書いた風なシャチホコ的謎生物をマスコットキャラクターにしている、ブータンの航空会社――ドゥルック航空の機体は、見渡す限りの山の上で大きく旋回を始めていた。

 いや着陸? どこに? こんな山の中で??
 よーく見れば、山に囲まれた谷の底に、確かに滑走路が見えている。いや見えるけども。これフライトシミュレーション系のゲームだったら両翼を持ってかれるタイプのコースじゃん。こんなに不安になる空港は初めてだよ。
 え、本当に降りれるのこれ? いや降りれなきゃ困るんだけど、お、降りれた-っ!

 

f:id:RockinSinK2:20200222014931j:plain

 

 ケツにドカンと振動を感じながら無事に着陸。
 そしてついに僕達はタラップから降り、ひんやりとした、それでいて綺麗なブータンの空気を吸い込んだ。標高2,000メートルに位置するという世界でも珍しい空港なので、心なしか空気が薄い気もする。

 

 これまた珍しい木造建築の美しい国際空港で、滅茶苦茶ゆるいイミグレーションを通った後、そういえばSIMカードを買うことを忘れていたことに気づく。売店はイミグレの向こう側だ。つまり入国前に買っておけということ。やばい、どうしよう。
 僕達が身振り手振りで何とか購入出来ないかを伝えると、入国管理官の若いブータン人は不思議そうな顔をして、行ってくれば良いじゃん? と指を差した。
 本当にいいの? いいらしい。

 結果イミグレを逆走し、無事SIMカードを買うことが出来た。ちなみに入国管理官の席に置いてあるパソコンには、サポートの切れて久しいXPのロゴが踊っている。
 ゆるい、ゆるすぎる。これが幸せの国の優しい空気感なのか。既に僕は、ブータンに恋し初めていたと言っても過言ではないだろう。言わせて欲しい、君が好きだ。ブータン

 

「ぼくも君が好きだブー」

 

 機体に5歳児がマウスで(しかもウィンドウズペイントで)描いたようなゆるかわマスコットキャラ、ぶーたん(命名)が耳元で囁いた。

 

f:id:RockinSinK2:20200222014634j:plain

 

 国際空港から外に出ると、そこに待っていたのは俳優の松重豊にどことなく似たツアーガイド。僕達はこれから彼に連れられて、この山奥の小国――幸せの国ブータンを旅するのだ。期待に胸が膨らんでいく。僕は会釈をして言った。

 

「ナイストゥーミーチュー!」

 

 挨拶は大事だ。それが片言のファニーイングリッシュであっても、気持ちが伝わることが大事なのだ。

 

「あ、どうも初めましてドルジです」

 

 日本語喋れるんかーい! しかもペラッペラやないか!
 僕達はその場で両足を上にしてずっこけた。ああ嘘だ。
 キモオタクらしくドゥフドゥフウヘヘと笑った。

 

f:id:RockinSinK2:20200222015351j:plain


 それにしても日本語で会話をしていると、一気に自分達が国外に居る感覚がなくなるから不思議だ。これが日本人の団体ツアーになると、最初から最後までうにょーんと本土から伸びた日本国が足元に存在しているような気にさえなる。19歳の頃、友人と二人で行ったHISの激安パッケージツアーでイタリアへ行った後、人生の中でイタリアと聞くと関西弁のおばちゃん達の顔をまず先に思い出してしまうようになったくらいだ。
 そんな取り留めもないことを考えつつ、流ちょうな日本語で話すドルジさんと雑談を交わす僕達を乗せたセダンタイプのトヨタ車は、谷に位置する空港から出て、更に標高の高い山間の町へとゆっくりと進んでいくのだった。


 つづく